千葉県館山市。歩いて渡れる無人島として知られる沖ノ島の目の前に、その店はある。ダイビング以外にも、毎年700〜800人のスノーケリング利用者を受け入れています。だが岡本代表が語る経営の言葉に、規模拡大の話はほとんど出てこない。「商業的になりすぎない」「続けられること」——そして、すべての判断の中心にあるのが、所属する指導団体NAUIの信条「最愛の人を任せられる信頼」だ。縮小するダイビング業界にあって、なぜこの店には親子連れが集まり、10年前に潜った子どもが大人になって戻ってくるのか。地元・館山で生まれ育った経営者に聞いた。

会社勤めと並行して、隠れて動かしていた

まずは、どのような事業をされているのか教えてください。

岡本代表: 千葉県館山市で、沖ノ島ダイビングサービスマリンスノーという店をやっています。内容としてはダイビング、スノーケリング、スキンダイビングですね。夏はもうスノーケリングに特化していて、親子連れが多いです。ダイビング以外にも、毎年700〜800人のスノーケリング利用者を受け入れています。

創業に至った背景を教えていただけますか。

岡本代表: きっかけは、ダイビングを遊びでやっていたことです。そのうち「インストラクターにならないか」という話になって、非常勤でやり始めました。その頃は普通に会社勤めをしていたので、休みの日に非常勤で教えるという形ですね。

インストラクターになって2〜3年くらいで独立したんですが、最初は会社に勤めながら、隠れて動かしていました。そうやって続けているうちに、漁協の方から「やらないか」と声をかけてもらって。それで「やりたい」と答えて、今の沖ノ島に定着したという流れです。

立ち上げ当初、周囲からはどう見られていましたか。

岡本代表: 「この事業は難しいよ」と言われましたね。ダイビング事業は難しいよ、と。確かに厳しい業界です。

「商業的になりすぎない」——譲れない一線

経営で大切にしている価値観、これは譲れないという判断基準はありますか。

岡本代表: 商業的になりすぎない、ということですね。

指導団体によってはカラーが違って、ローンを組ませて機材を買わせるようなところもある。そうはなりたくない。わからないままに、高いものを売りたくはないんです。

お客さんを楽しませることがベースにある、ということですか。

岡本代表: そうですね。お客さんが来やすいこと、それが一番です。

女性が動けば、海は開く

ホームページを拝見して、女性が入りやすいように作られていると感じました。

岡本代表: その通りです。実際、女性のお客さんは多いですね。

ダイビング自体、女性がある程度集まらないと男性は増えないんです。男性は普通にやっていれば入ってくる。だけど女性のほうが比較的行動的で、特に20代30代は「女性がやりたいから、男性がついてくる」というパターンが多い。女性が予約してきて、男性が一緒に来る。逆に40代50代になると、男性主体で予約が入ってくることが多いですね。家族で来る場合は、だいたい半々です。

ホームページの作り方に、その意識が表れているのでしょうか。

岡本代表: ダイビングのホームページって、なんというか、男性向けのものが多いんですよ。「海」という感じの、ちょっと敷居が高く見えるページが多すぎる。前からそう思っていました。だからうちは、そうならないようにしています。ブログも、女性に向けた説明のブログをけっこう作っていますね。

外部にまだ十分に伝わっていない魅力はありますか。

岡本代表: 「そんなに敷居は高くないよ」ということ。ダイビングは敷居が高いというイメージがついてしまっているので、そこがまだ伝わっていないかなと。

あとは、初めてのお客さんからすると、インストラクターって怖いイメージがあるんじゃないかと思うんです。先生みたいな感覚で。そこじゃないかな、とは思いますね。

選ばれる理由は「堅苦しくないこと」

他店と比べられたとき、選ばれる理由は何だと思いますか。

岡本代表: 堅苦しくないことですかね。あとは、無理に物販につなげないこと。

簡単には真似できない強みは。

岡本代表: 雰囲気だと思います。ブリーフィングを出すときも、船長がけっこう笑いを取るんですよ。そういう堅い感じじゃないところ。

他のところは、船長を漁師さんがやっているパターンが多いんです。漁師さんがやると、どうしてもとっつきにくさが出る。うちは漁師を使っていないので、その点は違うかもしれません。

指導団体によってカラーが違うというお話がありましたが。

岡本代表: そうですね。うちはNAUIですが、昔からの人は「NAUIらしいね」と言う。ただ自分ではよくわからない。体育会系のイメージが、どこか見え隠れしているのかもしれません。

大きいところではPADIやNAUIなど色々ありますが、それぞれ印象が違う。商業的じゃないところが多いというイメージを、周りの人からも持たれているのがNAUIのスタイルかもしれませんね。

10年後に、海へ帰ってくる

印象に残っているお客様のエピソードはありますか。

岡本代表: 10歳、11歳の頃に体験ダイビングをやった女の子がいて。その子が大学生くらいになって、沖縄でライセンスを取ってきたんですが、うちにファンダイビングで来てくれたんです。「戻ってきてくれたんだ」という感じでしたね。

あとは、体験ダイビングを何回か色々なところでやってきたお客さんが、「うちの体験が一番細かくやっていた」ということでライセンスにつながった、ということもありました。

若い世代の取り込みを重視されている理由も、そこにありますか。

岡本代表: そうですね。大学生以上、20代から30代前半をどれだけ取り込めるか。ロングスパンで考えないと、みんな高齢者ばかりになってきて、結局廃れるんです。

夏にスノーケリングで来ている子どもたちが、将来ダイビングに帰ってくるかどうか。過去にも、スノーケリングをやった子がライセンスまで来たケースはありましたが、10年以上経ってからでした。5年10年後に、また海に帰ってきてくれるか。そっちのほうが大きいと思っています。

「65歳以上は取らない」と決めている

安全面で徹底されていることはありますか。

岡本代表: うちは、初めての方の60代以上——65歳以上はもうお受けしないようにしています。昔からうちに来ている方で今70いくつという人は「いいよ」と言いますが、それ以外で一度も来たことがない方は、65歳以上のダイビングはお断りしています。

正直に言えば、お金があるのは年配の方なんですよ。ただリスクが高すぎて、その層の受け入れは今かなり減らしています。

一方で、体験の作り込みは丁寧だと伺いました。

岡本代表: 予約が入ったあとの集合場所や注意事項は、かなり細かく送っています。基本的に公式LINEで全部やり取りして、一括で送って「見ておいてね」という形ですね。終わったあとには、撮った写真や動画をプレゼントしています。

「最愛の人を任せられる信頼」が、すべての中心にある

経営の信念について教えてください。

岡本代表: 指導団体の信念をもとに考えているところがあります。NAUIの「最愛の人を任せられる信頼」。そこが中心となって、そこから派生して考えているという感じですね。

夏の親子連れにしても、親からすれば「子どもを任せられるか」が大きいじゃないですか。だからある程度、子ども中心の指導をしています。親のほうは、子どもが満足していれば、だいたい文句は出ない。全員を満足させようと思っても、それは無理な話ですから。決して親をおろそかにしているわけではないですが、少し子どものほうに比重を置いているイメージです。

採用で重視されるのは。

岡本代表: スキルもそうですが、喋りですね。手伝いに来てくれるインストラクターも、喋れば達者な人が多い。比較的、話しやすい人が多いと思います。

入社後の育成は。

岡本代表: こっちのカラーを押し付けないようにしています。自分のカラーで、自然体でやってくれればいい。ある程度「ここを外してはいけない」という線はありますが、それ以外は自分で考えていいんじゃないかと。それも多分、指導団体の考え方と一緒かなと思っています。

応募を検討している人に、知っておいてほしいことは。

岡本代表: 夏はスノーケリングがかなりの数なので、子どもが嫌いだと無理です。口コミを見てもらえればわかりますが、半分以上が親子の口コミだと思います。そこには子どもへの接し方について書かれているものが多い。子どもへの接し方、フォロー、そこがどこまでできるかが一番大きいところですね。

「SEOの時代は終わった」——AIをどう使うか

集客について、いま最も力を入れていることは。

岡本代表: 時代がどんどん変わっていますよね。インスタで検索して予約してくる人も多かったですが、インスタも少しずつ廃れてきているかなと。今の時代はAIです。

ChatGPTやGeminiで質問したときに、どれだけうちの店が出てくるか。少し前まではインスタとMEOでしたが、SEOはもう必要性が薄いかなと。SEOの時代は終わったなという印象があります。いくらSEOで上位にあっても、今はMEOのマップのところと、マップの上に出るAIの要約。そこにどう出てくるかが大きい。そこに力を入れています。

具体的にはどのように活用されているのですか。

岡本代表: GeminiもChatGPTも有料版で動かしています。ブログも全部そうですね。文章作成はChatGPTのほうが強いのでそちらで、画像生成はGeminiのほうが強いのでそちらで。表もGeminiが強い。その複合で作って、あとはCanvaを使ったりしています。

自分で日々のブログを書いたところで、ありきたりな内容になって引っかかってこない。AI要約に出てこない内容ばかりになってしまう。だから「AI要約に出てくる文章を作れ」と指示を出して作らせています。

かなり踏み込んで使われていますね。

岡本代表: 基本的にHTMLのタグあたりまで分かる人間が、この業界にはあまりいないと思うんです。自分は高校のときに情報処理をやっていて、2級までしか行けなかったのでプログラマーにはならなかったんですが。会社勤めをしていたときも、最後はシステム部門にいたので、少しかじってはいるんです。

タグもある程度、いいものを貼り付けてみて「こうするとこうなるか」と。それをGeminiに入れて「もっと綺麗に直せ」と指示して、出てきたものを貼り付ける。そういう途中の入れ替えができる人間が、この業界にはあまりいないと思います。見せ方もありますし。だから今がまだ狙い時なのかな、と。

館山で「一日過ごせる」ようにしたい

地域や業界とのつながりは。

岡本代表: 千葉県で海を持っているダイビングの店は、所属している範囲で99店舗あります。千葉ダイビングサービス協力会というものを立ち上げて、今その会長をやっています。3年半くらいになりますね。情報交換をしたり、ダイビング雑誌に共同で出稿したり。

事業を通して、地域にどのような価値を残したいですか。

岡本代表: 館山の観光が活性化するにはどうすればいいのか、ということですね。

スノーケリングや体験ダイビングって、はっきり言って3時間くらいで終わるんです。それだけのために館山に来るかというと、そうではない。昼ごはんがあって、そのあとスイーツがあって、お土産があって。周りの飲食や観光がどれだけ充実しているか、そこも含めてトータルで「館山で一日過ごす」ことになる。その充実度が必要だと思います。

うちでもB5判のマップを作って配っていますが、結局は地域全体でどれだけできるかです。お土産物屋や食べ物屋のほうから、遊びのほうに紹介できるつながりがどれだけできるか。そっちだと思います。

「欲は書かない」——3年後、5年後

3年後、5年後、会社をどのような状態にしたいですか。

岡本代表: 継続できること。欲は書かないです。

売上も、常勤のスタッフを1人増やせるくらいの売上があればいい。その程度ですね。

新たに挑戦したい事業はありますか。

岡本代表: ダイビングに付属したところかな、とは思っています。やってみたいことはありますが、まだ不透明ですね。

「海は面白い」

最後に、読者や地域の方へ伝えたいメッセージをお願いします。

岡本代表: 海は面白い。それだけです。

近年は、海よりプールのほうが安全だという風潮もあるようですが。

岡本代表: 最近は本当に過敏になっているなと思いますね。海に入って赤い点がついただけで「病院に行かなくていいですか」と言われる。昔なら「唾でもつけとけ」と言われた時代です。海に入ればチクッとすることはある。クラゲじゃなくてもあるんです。

親御さんも過敏になりすぎていて、結局それが海離れにつながっている。「プールのほうが安全」という考え方ですが、プールだって安全じゃない。ちゃんとした安全対策をしていれば変わらないんです。

プールでは浮き輪で遊ぶでしょう。浮き輪は抜けるんですよ。海ならライフベストを着せて遊ばせればいい。そうすれば脱げない。子どもに浮き輪で遊ばせようとするから危ないんです。何が本当の安全対策なのかがわからないまま、「危険だ、危険だ」と言っている。そこは違うんじゃないかと思います。

編集後記

取材中、岡本代表は何度も「難しい質問ですね」と言って考え込んだ。派手な言葉で自社を語ることをしない人だった。

だが、話が「最愛の人を任せられる信頼」に及んだとき、それまで断片的に見えていたものが一本につながった。商業的になりすぎないこと。子どもへの接し方を採用基準に置くこと。65歳以上の新規受け入れを断ること。スタッフに自分のカラーを押し付けないこと。すべてが、この一つの信条から派生している。

「継続できること。欲は書かない」——成長を語らないその言葉は、諦めではない。10年後に海へ帰ってくる子どもを待つ商売とは、そもそもそういう時間軸で動いている。館山で生まれ育った経営者は、目の前の売上ではなく、この海に人が来続ける状態そのものを守ろうとしている。

「海は面白い」。取材の最後に返ってきた一言は、25年前に遊びで潜り始めた頃から、何も変わっていないのだろう。

会社概要

店名沖ノ島ダイビングサービスマリンスノー
所在地千葉県館山市
業種分類サービス・レジャー
代表者名岡本代表
WEBサイトhttps://www.marine-snow.jp/
事業概要体験ダイビング/スノーケリング/スキンダイビング/ダイビングライセンス取得講習
所属団体NAUI(全米水中インストラクター協会)/千葉ダイビングサービス協力会